数年前に、井関裕靖氏(慶応大学)、近藤剛史氏(東北大学)との共同研究において、Gromovのグラフモデルランダム群があるクラスのCAT(0)空間(これは2一様凸空間である)に対して固定点性質をもつという結果を得た。ここで、あるクラスのCAT(0)空間とは、我々が以前の研究において導入した不変量δ(0以上1以下の値をとる)が定数c<1によって上から一様に押さえられているCAT(0)空間のクラスを表す。同じ頃にNaor-Silbermanはより一般にp一様凸空間(p>= 2)の場合に同様の結果を得た。CAT(0)空間の場合に限ると、我々の証明はNaor-Silbermanのそれより幾何学的かつ簡明であり、そこで今年度、我々の証明をp一様凸空間の場合に一般化することを目指して研究を行った。Naor-Silbermanの証明を詳細に検討することにより、p>2の場合、p一様凸空間の凸性定数とよばれる不変量が1未満になってしまうことが、我々の証明のアイデアがそのままでは機能しないことの原因であることが明らかになった。そこで、Naor-Silbermanの証明が凸性定数の大小にかかわらず機能することの本質的な理由を把握し、その議論を幾何学なもので置き換えることを目標に研究を継続している。 また、Mendel-Naorの距離空間ターゲットのエクスパンダーに関するプレプリントを詳細に検討し、不変量δが1であるCAT(0)空間をターゲットとするエクスパンダーの構成について、勉強会で解説した。
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