研究概要 |
本年度の研究実施計画に基づき連携研究者(大阪大学・名和範人教授,京都大学・松本剛助教)らとともに研究活動を行った.(1)乱流と散逸的弱解に関する研究では,一様等方乱流の流速差の三次モーメントに関する統計の数学的な仕組みがKarman-Howarth-Moninらによるエネルギー散逸率の数学的な量の取り出し方にあることがわかった.このKHM関係式を公理として採用することで従来とは異なる確率過程論的な乱流理論の合理的記述が可能になった.(2)オイラー方程式の記述する流れのスケールα以下の量を平均化して得られるオイラーα方程式に対して,δ関数の初期渦度(α点渦)を考えた時の時間大域解の挙動をα点渦の時間発展方程式として記述し,その三体問題について解析を進めた.その結果,ある条件下でα→0の極限で,α点渦の挙動は無限遠方から自己相似的に原点に近づき衝突した後,再び自己相似的に無限遠点に飛び去っていく解に収束することが証明された.さらに,この特異解にそって超関数の意味でエネルギー散逸率はゼロにエンストロフィーは散逸することがわかった.オイラー方程式の解のエンストロフィー散逸は二次元乱流におけるエネルギースペクトルにおけるエンストロフィーカスケードに対応する慣性領域の出現と関係が深いとされ,α点渦系の特異解のさらなる研究が二次元乱流の理解につながることが示唆される.(本結果は現在投稿中) 本研究課題に関連する研究情報の交換および成果発表のためにいくつかの研究集会を実施した.(1)「地球環境流体研究と数理科学ワークショップ」(文部科学省共催)(2)RIMS共同研究「偏微分方程式の背後にある確率過程と解の族が示す統計力学的な現象の解析」(3)「流体乱流の力学と統計-複雑系科学からのアプローチ」合宿型式セミナー(物質・デバイス領域共同研究・ナノシステム科学拠点事業との共催)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,本研究課題の最終目標を達成する数学モデルを複数のサブテーマの中から,三次元乱流と散逸的弱解の関係,DeGregoriモデル,さらにオイラーαモデルが有望であることがわかり,それを踏まえて今年度はそれぞれのモデルに対して様々な数学的結果を得た,最終年度に向けて必要な要素は整ったので,これらのモデルを研究することが可能になった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたオイラーα点渦モデルの解析による散逸的弱解と二次元乱流の関係の研究を重点的に行う必要がある.α点渦系の力学系理論からのアプローチは乱流理論の理解に有益であると考えている.また,その関連する話題としてα渦層の曲率特異点形成とエンストロフィー散逸についても数値的な研究を進めたい.その際には高速かつ精度の高い数値計算手法の確立が重要であるが,現在はまだアイデアが確定しておらず,いくつかの試行錯誤が必要である.
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