本年度は、交付申請書に挙げた3つの具体的な研究目標のうちの特に(1)を中心に研究を行いながら、(2)の準備としてパンルベ方程式の変わり点の問題に取り組んだ。まず(1)については、京大大学院生の廣瀬三平君による計算機を用いた精力的な計算の結果、最も基本的なPearcey系のストークス幾何の構造がほぼ解明された。その結果、Berk達により導入されたBNR方程式の新しいストークス曲線が、変数の数を増やしてPearcey系に拡張して考えれば通常のストークス曲面に過ぎないことが明らかになった。これは、高階常微分方程式の新しいストークス曲線に対して新たな視点からの解析が可能なことを示唆する興味深い結果である。また、パンルベ方程式の変わり点問題については、第2パンルベ方程式がパンルベ方程式の2重変わり点における標準形であることを証明した。単純変わり点や単純極における以前の結果と合わせれば、2階のパンルベ方程式の変わり点問題はこれでほぼ片が付いたと考えられる。更に、連携研究者の小池氏、河合隆裕氏(京大)、東大大学院生の神本晋吾氏との共同研究により、合流する単純変わり点と単純極をもつシュレディンガー方程式の完全WKB解析的な変換理論を確立すると共に、その標準形を与えるWhittaker方程式の所謂Voros係数をベルヌイ多項式を用いて具体的に表すことに成功した。これにより、単純変わり点と単純極に由来するWKB解の動かない特異点の構造が明らかになった。 非線型方程式の形式解の動かない特異点という重要な問題の解明に向けて、次年度は当初の研究目標に沿う研究と並行して、Whittaker方程式に対して行った解析のパンルベ方程式への拡張についても考察してみたい。
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