研究課題/領域番号 |
21340038
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
原岡 喜重 熊本大学, 大学院・自然科学研究科, 教授 (30208665)
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キーワード | 解析学 / 微分方程式 / 大域解析 / rigid局所系 / 完全積分可能系 / モノドロミー / 接続係数 / アクセサリー・パラメーター |
研究概要 |
Rigidityや延長可能性の視点から、複素領域における微分方程式の大域解析の手法を開拓していくことを研究目的としていた。本年度は、「アクセサリー・パラメーター研究会」を2011年10月8日~11日(東京大学玉原国際セミナーハウス)、および2012年3月15日~17日(熊本大学理学部)の2回開催し、熊本大学において定期的に「数論幾何的微分方程式セミナー」を行い、さらに国内外における研究打合せや議論を頻繁に行うことで研究を進めた。 本年度に得られた成果は以下の通りである。 1.加藤・関口による自由因子に特異性を持つ完全積分可能系のモノドロミー表現の計算を進め、rigidityおよび不変Hemite形式を具体的に調べた。さらにPainleve VIなどの変形方程式の代数関数解との関係も明らかにした。 2.Regular coordinateの研究を進め、Katzの操作や固有値のcoalescenceに対する振る舞いを調べた。その結果、変形方程式の記述や、異なるスペクトル型に対する変形方程式の間の関係(reduction)の具体的記述の方法を得た。 3.Fuchs型方程式の重複する特性指数に対する接続問題に関し、他の特異点における局所解を用いて高次元解空間のに底を構成するという着想を得、問題の新しく実際的な定式化を進めた。 4.不確定特異点を有する微分方程式に対しても、拡張された意味のスペクトル型による統制が可能であることを見出し、さらに合流操作によってFuchs型の方程式から種々の量を移行する手法を得た。 5.Orbifoldの一意化に現れるFuchs型方程式のアクセサリー・パラメーターについて、その実解析性を考察し、特異点の融合による退化における極限を例において計算した。 以上のように一般論と具体例とを並行して研究することにより、複素領域における線形微分方程式の大域解析と、数論・表現論をはじめとする諸分野との関わりについて、新しい知見を提供し、研究の活性化に貢献することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に記載した延長可能性に関しては、加藤・関口の完全積分可能系という興味深い対象が発見されたことにより、抽象論にとどまらない実体に基づいた研究が可能となり、多くの知見を得ることができた。Regular coordinateという着眼点も得られ、理論の見通しがよくなっただけでなく、具体的計算にも有用であった。共形場理論・数論・微分幾何学・量子力学などの研究者との研究交流も生まれ、お互い刺激となって研究に広がりがもたらされた。以上のとおり、研究は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進展に伴い、新しい着想や知見が得られ、取り組むべき問題がかなり具体化されてきている。たとえば延長可能性によるアクセサリー・パラメーターの決定をbasicなスペクトル型に対して行うこと、延長と変形方程式の代数関数解との対応およびKatzの操作に対する振る舞いを記述すること、regular coordinateを用いて変形方程式のreductionを記述すること、特性指数に重複のある場合の接続問題、などが現時点で考えられる。セミナー・研究集会を開いて議論を進め、さらにいろいろな分野の研究者と交流を進めることで、これらの問題に取り組みつつ、さらに新しい展開を追求していきたい。また若手研究者に向けてこの方面の研究の魅力を発信し、研究の裾野を広げていきたいとも考える。
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