素粒子の標準理論ではπ^+→e^+ν_e崩壊はヘリシティー抑圧されており分岐比が非常に小さい。そのため、ヘリシティー抑圧されない新しい物理現象に対して、その効果が大きく増幅して観察される特別な崩壊モードとなっている。本研究の目的は、π^+→e^+ν_e崩壊とπ^+→μ^+ν_μ崩壊の相対的な分岐比(Re/μ)を0.05%の精度で超精密測定することにより、標準理論をえた現象を探索する事にある。 2011-2012年度は、2009年度に開始した物理データ収集を継続し、2011年8-12月および2012年7-12月に物理データ収集を行った。その際、大学院生がTRIUMFに長期間滞在し、日本グループが責任を持つ波形記録デバイスの管理運用や、精度の高い物理解析に必要な特別データの収集などを行なった。インターネット経由でのリモートアクセスなどを活用して、日本からもリモートで物理データ収集に参加した。 また、2009-2010年に収集した物理データの解析を進めた。解析においては、人為的なバイアスが混入する危険性を低減するための「ブラインド解析」を採用した。稀崩壊実験における「ブラインド解析」とは異なる手法で実現する必要があるため、本研究独自の「ブラインド解析手法」を開発した。 2011年12月および2012年12月には、時間スペクトルに起因する系統誤差を低減するための特別な校正データを収集した。さらに、時間スペクトルに内在する各種バックグランドの分析を推し進め、アクシデンタルコインシデンス起源のバックグランドの影響を精度良く評価する手法の開発に成功した。この解析の結果は、大学院生によって2012年度大阪大学修士論文としてまとめられている。
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