研究概要 |
2次元電子系を近接して2層配置した量子ホール状態は、層間のクーロン相互作用により2層の電子が協調して新しい量子ホール状態を形成する。特に層間相互作用の強い場合、ランダウ準位占有率υ=1および2の量子ホール状態は2層の電子密度差を任意に変えても安定に存在する。我々は,このような量子ホール状態と超伝導の類似性に着目して研究を進めている.22年度は,2層系υ=1量子ホール状態で発見した擬スピン・ソリトン格子相と考えられる新しい状態について,トンネリング・ギャップの小さい試料を使ってトランスポートの実験を行った.希釈冷凍機の混合器内で,超伝導ステッピングモーターにより,試料を0.05°の分解能で1軸回転するゴニオメータと,14.5テスラ超伝導マグネットを有する装置を用い,活性化エネルギーの総電子密度依存性,電子密度差依存性と面内磁場依存性を測定した.その結果,トンネリング・ギャップの小さな試料においても活性化エネルギーがソリトン格子相のできる面内磁場で極小を示すことを明らかにした.この研究成果は23年度に開催される低温物理学国際会議において発表する.また2層に独立に電極を付けた試料でマイクロ波を照射しながら層間のコンダクタンスを測定するために,希釈冷凍機へスプリット横型超伝導マグネットとマイクロ波測定装置を組み合わせる作業を進めている.またこの試料には独立なコンタクトを取るために,端子部分の電子密度を調整する多数のゲート電極が必要である.そのため多数の電極を持ったサンプルホルダーをマウントできるようにクライオスタットの改良を行った.この準備過程で2層系試料を用いてυ=2/3量子ホール状態のスピン転移を利用した核偏極実験を行い,その結果片方の層の核偏極がもう一方へ伝搬する現象を見出した.さらに伝搬速度を測定し,核スピン拡散速度に対応していることを明らかにした
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