固体表面上に形成された低次元金属においては、電子-電子、電子-フォノンなどの相互作用、あるいはラシュバ型スピン軌道相互作用によって、さまざまな興味深い低次元物性が発現する。本研究では、角度分解光電子分光(ARPES)などの手法を組み合わせることにより、Si(111)、Ge(111)などの表面上に形成した低次元金属の物性を研究し、以下の成果を得た。 (1) Ge(111)表面上に4/3単原子層のPbが吸着しβ-√3表面に関して、スピン分解光電子分光、第一原理計算により、詳細な電子状態の解明を行った。従来明らかでなかった表面ブリュアンゾーンのさまざまな領域におけるスピン構造を解明できた。また、この表面の構造に関して走査トンネル顕微鏡像のシミュレーションを行い、われわれの構造解析と矛盾すると考えられてきた走査トンネル顕微鏡観察結果が、われわれの構造モデルにより良く再現できることを明らかにした。 (2) Si(111)表面上に2原子層のGeをエピタキシャル成長させ、さらにその表面上にPbを吸着させてβ-√3表面を作成することに成功した。この表面はGe(111)上のβ-√3表面とほぼ同じ構造を有するが、基盤のバンドギャップが大きいためにPb由来の表面状態がより2次元的に強く局在する、また、Ge層中Ge由来の電子状態がSiのバンドギャップ中に生成するため、Geが2次元金属を形成することを見出した。
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