研究概要 |
完全結晶を用いたBragg反射では、分散面にギャップが生じる。実空間で,結晶に歪みが存在し、結晶への入射角がBragg条件からDarwin幅程度外れているという二条件が満たされると、X線波束が結晶中を伝播する際、通常の群速度から大きく外れ、Berry位相の補正が必要となる[1]。X線波束は、結晶の法線ベクトル方向に流され、その変位量は、歪み量に比例し、分散面のギャップに反比例する[1]。この現象は、実空間と逆空間に跨ったパラメーター空間における疑似磁場による疑似ローレンツカによるビームの偏曲と解釈出来る。我々は、この理論の実験検証に成功した。 実験は、SPring-8、アンジュレータービームラインBL19LXUにて、15keVのX線を用いて行った。分光器下流の結晶光学系により、ビームのエネルギー分散、角度発散を低減した。100μmtの両面研磨されたシリコン単結晶試料を用いた。試料を固定した際の僅かな湾曲により結晶歪みを生じた。実験の結果、X線はBragg角18度程度で結晶に入射し、結晶中を約5mm伝播し、結晶(や結晶歪み)の縁に到達した。理論予言の通り、歪み量に比べ5桁程度大きい、マクロな導波管効果が結晶中で観察された。縁からX線は、再び入射光に平行に、14秒角以下の極低発散角で出射された。入射X線の偏光依存性も、理論予言と定性的に合う結果が得られた。 これらは、歪み結晶中の新しいX線の動力学的回折理論[1]から予言された新現象であり、全反射を伴わないX線導波効果である。極低発散角の出射光が得られる点が実用に適する。歪みダイヤモンド結晶を試料とした場合にも、同様の効果が確認され、予想通り高いスループットのX線導波管が実現された。研究成果は、新しいX線光学素子設計への道を拓くとともに、歪み結晶中のX線の動力学的回折理論に新しい描像を与えた。 [1]Sawada et al., PRL, 96, 154802(2006)
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