研究概要 |
完全結晶を用いたBragg反射では、分散面にギャップが生じる。実空間で、結晶に歪みが存在し、逆空間で、結晶への入射角が、Bragg条件からDarwin幅程度外れているという二条件が満たされると、X線波束が結晶中を伝播する際、通常の群速度から大きく外れ、Berry位相の補正が必要となる。X線波束は結晶の法線ベクトル方向に流され、巨視的な異常シフト現象が生じるが、この変位量は、歪み量に比例し、分散面のギャップに反比例する[1]。実験による検証は、SPring-8、アンジュレータービームラインにて、15keVのX線を用いて行われた。昨年、100μmtのシリコン歪み結晶中でX線が約5mm伝播し、結晶の縁に到達した成果について報告した[2]。 我々は、この現象を利用する事によって、ヘテロエピタキシャル結晶の界面での歪みを解明できる事を示した。シリコン基板の上にゲルマニウムを4原子層程積み、島状の量子ドットを生じさせた試料を入手し、実験を行った。界面に格子定数のミスマッチがあるため、シリコン結晶表面近傍で、量子ドットの形状に応じた二次元的なうねりが生じている。実験では、ブラッグ角近傍の狭い角度範囲で、入射した角度よりも浅なる方向、深くなる方向、二方向に、X線異常シフト現象が同時に観測された。単一ピークをなす入射X線が、三つのピークに分離する新しいX線光学現象が観測された。実験結果を解析した結果、量子ドットの1ミクロン程度の間隔ごとに、4秒角程度の角度分布を有する界面付近結晶面のうねりを検出出来ている事が分かった。今後、量子ドットの密度を上げ、同様の測定を行えば、界面において1ミクロン以下のスケールでの結晶歪みが測定できるであろう。非破壊でこの様な知見を得られれば、他の手法では達成できなかった、次世代半導体デバイス開発のブレークスルーが期待できるであろう。 [1]K.Sawada et al.,Phys.Rev.Lett.,96,154802(2006) [2]Y.Kohmura,et al.,Phys.Rev.Lett.Viewpoint,104,244801(2010),B.W.Adams,Physics 3,50(2010)
|