研究概要 |
本年度は、建設・改良を進めている光電子分光装置を低エネルギー超高分解能仕様にするために、主に励起光源系と試料測定系の改良を行った。改良した装置を用いて、銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップと擬ギャップについての研究を行った。装置全体の設計と製作においては、ブリルアンゾーンの広い範囲における測定と極低温化を同時に実現するために、低温角度可変型マニピュレーターの試料マウント部分の設計と改良を行った。また、高効率の測定を実現するために、励起光源系の差動真空排気系の強化や光路調整を行った。これらの改良を施した光電子分光装置を用いて、LaおよびPbを置換した単層系銅酸化物高温超伝導体Bi_2Sr_2CuO_6(Bi2201)の高分解能角度分解光電子分光測定を行い、得られた結果をヘリウム光源とキセノン光源で測定した場合で直接比較したところ、アンチノードにおける擬ギャップのエネルギースケールが励起光のエネルギーによって顕著に異なる一方、ノード領域のエネルギーギャップには大きな差が無い事を見出した。さらに、アンチノード領域の擬ギャップは2種類存在する事を明らかにした。また、銅酸化物の参照物質である鉄化合物(Ba,K)Fe_2As_2においても超伝導状態よりも上の温度で擬ギャップを観測する事に成功し、観測された擬ギャップが大きく波数に依存する事を明らかにした。この結果から、銅酸化物や鉄化合物で観測された超伝導ギャップよりも大きなエネルギースケールを持つ擬ギャップは、共通して反強磁性相互作用に密接に関係していると結論した。
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