本年度は、開発を進めている超高分解能光電子分光装置の改良、具体的には、励起光源系と試料マニピュレータ系の最終調整を行い、銅酸化物高温超伝導体における超伝導ギャップと擬ギャップ、鉄系および層状カルコゲナイド超伝導体などの微細電子構造の決定を行った。装置改良においては、低温マニピュレーターの回転動作の低温化の確認を行った。また、ヘリウム光源からの残留ガスによる試料表面の劣化を抑えるために、ヘリウム純化用超高真空槽の設置を行い、チタンゲッター・イオンポンプによるガスの純度向上を行った。改良した光電子分光装置および放射光施設を用いて、FeTe1-xSex超伝導体の電子状態の組成依存性を決定し、x=0に近づくほど、価電子帯のスペクトル幅がブロードになることを見出した。このことから、FeTe近傍の組成では磁気励起と電子が強く結合していると結論した。また、Fe置換した1T-TaS2電荷密度波超伝導体の電子状態のFe置換量依存性を精密決定し、その電子状態は、融解したモット絶縁相と超伝導相の実空間共存で特徴付けられると結論した。また、グラファイト層間化合物超伝導体を極限まで薄くしたC6CaC6をの電子状態を決定する事で、超伝導に重要とされている「層間電子バンド」を観測することに初めて成功した。本研究によって明らかになった種々の超伝導体の電子状態は、銅酸化物におけるモット転移近傍の電子状態や超伝導機構を明らかにする上でも重要な手がかりを与えると期待される。本研究全体を総括し、銅酸化物の電子状態は、擬ギャップの発現や強い磁気励起の存在など、多くの点で鉄系超伝導体と類似している一方で、超伝導ギャップの対称性、多バンド・単一バンド超伝導など特徴的な違いを有しており、その共通点・類似点の原因を解明することが、今後これらの高温超伝導体の超伝導機構の完全解明に向けて重要であると結論した。
|