伝導電子と局在スピンが相互作用する系において幾何学的フラストレーションがもたらす新しい物性を明らかにする目的で、部分磁気秩序を中心とした自己組織化現象の発現機構とそれらに起因した新奇物性を対象とした理論的な研究を行った。成果として以下の結果を得た。 (1)周期的アンダーソンモデルにおける部分無秩序相:三角格子上の周期的アン+B9ダーソンモデルに対して平均場近似による基底状態の計算を行い、部分無秩序相の発現可能性を調べた。その結果、ハーフフィリングにおいて、非共線的な反強磁性金属相と近藤絶縁相の間に、部分無秩序相が現れることを明らかにした。この部分無秩序相は、ハニカムネットワーク上の共線的な反強磁性状態と、残ったサイトの常磁性状態が共存した状態である。以前得た近藤格子モデルにおける結果との比較を通じて、アンダーソンモデル特有の局在電子がもつ電荷の自由度が重要な役割をしていることを明らかにした。 (2)近藤格子モデルにおけるスカラーカイラル秩序の起源:前年度に得た1/4フィリング近傍のスカラーカイラル秩序の起源を調べ、フラストレーションのもとでのフェルミ面効果(高次のコーン異常)が重要な役割を果たしていることを明らかにした。 (3)パイロクロアスピンアイス近藤モデルにおける特異な磁気構造と抵抗極小現象:スピンアイス的な異方性をもったイジングスピンと相互作用する伝導電子系の有限温度の性質を、多項式展開モンテカルロ法とクラスター動的平均場法を用いて調べた。その結果、これまでに知られていなかった32幅格子構造をもった特異な磁気構造が現れることを示した。また、アイスルール的な短距離相関によって電気抵抗が増大する特異な振舞いも明らかにした。
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