メゾスコピック系物理学は、リソグラフィを施すことによって微細加工された金属薄膜や、半導体ヘテロ構造のような微小領域において電子の繰り広げる量子現象を研究する分野である。遷移金属酸化物は、単純金属や半導体と異なり、マクロな系であっても伝導電子が他の電子、格子、スピン等と強い相互作用を示すため、系を微小化することで期待される物理は自明ではない。新たな量子現象を追及するため、本研究では遷移金属酸化物ヘテロ構造においてメゾスコピック系を作製し、その輸送特性から新たな量子相の創成を目指す。 本年度は、酸化物半導体であるSrTiO_3を数nmの狭い領域に閉じ込めたδドープ構造の示す電気伝導特性から、二次元電子系が形成されていることを確認した。本系では、マクロな系の伝導から予測されるよりも6倍程高い電子移動度が観測された。これは、閉じ込めた伝導層の電子が上下のバリア層へ浸み出し、より清浄な格子内を走ることに起因しており、系を微小化したことに特徴的な現象である。さらに、SrTiO_3が低温で超伝導転移することを利用するため、極低温で測定を行ったところ、超伝導電子対の輸送特性も二次元的な挙動を示すことを明らかとした。このように、高移動度二次元電子ガス相と、二次元の超伝導相を同じ系で実現した例は今回が初めてである。同様に電子を閉じ込めることができるLaAl03/SrTiO3ヘテロ界面においても、ヘテロ構造に外部電圧を印加し、電子を閉じ込める領域を変化させることで、その伝導特性を評価した。外部電圧によって、界面の電子移動度は10倍程変化するのに対し、電子密度はほとんど変化しなかったことから、今まで主張されてきた外部電圧は界面電子密度を変調するという主張に疑問を投げかける重要な結果が得られた。
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