本年度はまず10万気圧程度の圧力下でNMR実験を行うための、圧力セルを開発した。試行錯誤の結果、ダイヤモンド・アンビル装置と類似の構造を持ち、試料体積を同じ圧力領域の従来のセルに比べて10-100倍程度大きく取れる、新しいタイプの対抗アンビルがた圧力セルの作製に成功した。この高圧装置は全体がコンパクト(直径29m高さ41mm)でありながら、7mm^3という大きな試料容積を実現した、アンビルの片方に透明なモアサナイト窓を取り付けることで、ルビー蛍光の圧力下測定により正確な圧力校正ができる。また圧力伝達媒体として希ガスのアルゴンを低温で液化し圧力セル中に封入する技術を開発した。アルゴンは高圧でも等方的な圧縮性を示す。酸化銅の核四重極共鳴の線幅から実際のセルないの圧力分布を評価したところ、従来使われていた圧力媒体に比べて静水圧の良い結果が得られた。更に、圧力下で銅、プラチナ、スズなどの金属のナイトシフト、および酸化銅の核四重極共鳴の共鳴周波数を測定することにより、NMR測定中の圧力校正が可能となった。次に、このセルと用いて、鉄系超伝導体の母物質であるSrFe_2As_2に対し、As核のNMRを高圧下で行った。その結果、5GPa付近の狭い圧力領域でのみ超伝導が発現すること、しかも一つの共通の相転移温度を境に、超伝導とストライプ型の反強磁性秩序が(おそらく空間的になんらかの長周期構造をつくって)共存していることが明らかになった。
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