研究課題/領域番号 |
21340093
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧川 仁 東京大学, 物性研究所, 教授 (10179575)
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キーワード | 核磁気共鳴 / 高圧技術 / 強相関電子系 / 量子スピン系 / 量子相転移 |
研究概要 |
電子系化合物YbAlB4における量子臨界性:本年度は重い電子系Yb化合物YbAlB4のNMRによる研究を開始した。YbAlB4には結晶構造が異なる-タイプ、-タイプの2種類があり、両系ともYbの価数が2.73-2.75の価数搖動物質である。-タイプはゼロ磁場で比熱や磁化率が絶対零度に向かって発散を示す非フェルミ液体的な振る舞いを示すが、-タイプは1K以下で通常のフェルミ液体の振る舞いを示す。我々は-タイプについてAl, B原子核のNMRを行い、3テスラの磁場をc方向にかけた時に、核磁気緩和率が温度の弱いべき乗で発散する量子臨界的な磁気揺らぎを見出した。更に圧力下での磁気相転移を調べるために、2GPaまでの圧力下でNMR測定を行ったが、1.5K以上の温度範囲では反強磁性秩序は観測されなかった。ただし6.6テスラの磁場をかけていたために、ゼロ磁場での磁気秩序が磁場によって抑制された可能性が残る。 異方的カゴメ格子スピン系ボルボサイトの強磁場下相転移:ボルボサイトCu3V2O7(OH)2・2H2Oは異方的なカゴメ格子上の量子スピン系で、ゼロ磁場で1Kにおいて磁気相転移を示すが、低温でも異常に遅い揺らぎが残っており、また強磁場下では特徴的な磁化ステップを示すことで興味が持たれている。我々は31テスラまでの高磁場でV原子核のNMR実験を行い、モーメントの大きさに変調があり遅いゆらぎを伴ったスピン成分と通常の秩序を示すスピン成分がミクロに共存するheterogeneous spin stateと呼ぶべき状態が実現していることを見出した。この結果は、磁場によってフラストレーションが解消され磁気秩序が安定化されるプロセスが、段階的かつ空間的に非一様に起こることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(理由)ヘリウム3冷凍機中で対抗アンビル型の圧力セルの角度を制御する機能が、まだ実現していない。このために、YbAlB4や、次項に述べる非磁性基底状態を持つPr系の重い電子系において、精密な角度分解高圧下NMR実験を1K以下の極低温で実施する見通しが立っていない。
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今後の研究の推進方策 |
1K以下の温度領域、10GPaまでの高圧下で精密な角度制御NMR測定を行うには、圧力セルが自由に回転できる大きなスペースを持ち、且つ冷却効率の良い循環型のヘリウム3クライオスタットを新たに設計する必要がある。これに成功すれば、四極子自由度が関与した重い電子系の超伝導状態が実現している可能性が高いPrTi2Al20の高圧下NMR実験が可能になると期待される。
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