研究概要 |
スパッタリングにより作成した良質のアモルファスMo_xGe_<1-x>膜に対しモードロック共鳴(MLR)測定を行うことにより,渦糸系を高速でフローさせピン止めの影響を排除した極限下での渦糸格子固有の融解転移(動的融解)を観測した。これまでに,低温域では動的融解磁場の温度依存性が急激に弱まり,静的融解磁場より大きく減少することを見出した。これは渦糸格子の真の量子融解転移を世界に先駆け捉えたものである。この現象と関連して,フローする渦糸格子の格子方位を明らかにした。これは30年も前から理論的に議論されている基本的重要問題であるがこれまで実験がなかった。我々は適度な速度域では,渦糸格子は三角格子の一辺がフロー方向と垂直となる垂直方位をとること,磁場を増大させると熱的及び量子的動的融解磁場の手前で,垂直から平行方位へと回転することを見出した。これは動的融解手前で渦糸系が感じるピン止め力が弱まるためと考えられる。23年度の特筆すべき成果は,垂直方位をとる磁場中で速度を上昇させると,ある臨界速度を境に平行方位へ回転すること,さらにこの臨界速度では渦糸が1格子進む時間が格子間距離に依らず,準粒子がクーパー対に回復する準粒子寿命とほぼ等しいことを明らかにした。運動する渦糸は超伝導が壊れた渦糸芯に引き寄せられることを考慮すると,この結果は運動する渦糸間の引力相互作用を初めて実験的に捉えたものといえる。準粒子寿命というミクロな機構が渦糸ダイナミクスの巨視的挙動を支配することを実証したものであり大きな物理的意義がある。渦糸ダイナミクスのシミュレーションや応用分野にも波及する。一方2次元系ではこれまでのところMLRは観測されておらず,渦糸格子の動的融解や新奇絶縁体相の検出には至っていない。これは2次元系の強いゆらぎの効果により,わずかなピン止めでも格子の形成が妨げられているためと考えられる。
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