研究概要 |
カゴ状ナノ空間をもつ物質では,強い電子格子相互作用によって,内包された希土類イオンの非調和振動である熱活性ラットリングと量子トンネリングが出現する。熱活性ラットリングは,弾性定数の周波数分散(超音波分散)によって観測でき,解析により活性エネルギーEと特性緩和時間t_0を決定できる。また,低温で熱励起できなくなった非調和振動は量子トンネリングをもたらし,弾性定数の低温ソフト化として観測できる。Pr化合物で最初の重い電子超伝導体PrOs_4Sb_<12>とBCS超伝導体LaOs_4Sb_<12>の混晶系(Pr_<1-x>La_x)Os_4Sb_<12>の純良単結晶をフラックス法により育成し超音波実験を進めた。その結果,重い電子超伝導領域にあるPrリッチ濃度x=0.2では,PrOs_4Sb_<12>と同様にラットリングによる超音波分散とトンネリングによる低温ソフト化を観測した。また,超伝導転移近傍で低温ソフト化は停止し,超伝導相では温度に依存しない一定値を示した。これは,超伝導相において電気四極子の自由度が失われたことを意味する。Γ_3型の弾性定数(C_<11>-C_<12>)/2を成分として含むC_<11>に特徴的に観測されることから,結晶のT_h対称性を破る電気四極子O_u,O_vが重要な役割を果たしていることが推定できる。また,3-20-6系カゴ状化合物Pr_3Pd_<20>Ge_6の実験を進め,10-20Kと20-30Kの2つの温度領域にラットリングに起因する超音波分散を観測した。これは,複数の安定点をもつ非調和振動が存在することを示している。低温の250mKでΓ_3結晶場基底をもつ8cサイトにおいて反強四極子秩序を観測した。さらに低温の60mKでΓ_5基底をもつ4aサイトの秩序を観測し,同じ対称性をもつΓ_5型のラットリングと強い関連があることを示した。4f電子とラットリングの両者が関与した秩序は初めての例であり,今後も電子格子相互作用の観点から詳細な実験を進める。
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