研究概要 |
カゴ状物質では電子格子相互作用により,ゲストイオンの非調和振動である熱活性ラットリングや量子トンネリングが出現し,新しい機構の重い電子や秩序状態の可能性が期待される。熱活性ラットリングは超音波分散現象によって観測でき,解析により活性エネルギーEと特性緩和時間τ_0を決定できる。また,低温での量子トンネリングは,弾性定数の低温ソフト化として観測できる。3-20-6系カゴ状化合物Pr_3Pd_<20>Ge_6では10-20Kと20-30Kの2つの温度領域にラットリングに起因する超音波分散を観測した。また,250mKでΓ_3基底の8cサイトにおいて反強四極子秩序を観測し,低温の60mKでΓ5基底の4aサイトの強四極子秩序を観測した。さらに,同型のNd_3Pd_<20>Ge_6においても複数の温度領域で超音波分散を観測するなど,多様な非調和振動が普遍的な性質であることが明らかになってきた。一方,ラットリングが発現しない充填スクッテルダイトPrFe_4P_<12>の未解明秩序相Aと磁場方向[111]で出現する磁場誘起秩序相Bを解明するため超音波実験を行った。ゼロ磁場での明瞭な弾性定数C_<44>および(C_<11>-C_<12>)/2のソフト化を観測し,体積弾性率C_Bのソフト化を発見した。これは,A相では全対称r1型の電気16極子秩序が起きていることを強く示唆している。また,磁場中では全ての弾性定数のソフト化が顕著に増大し,通常の四極子感受率による解析が妥当性をもつことがわかった。解析結果から,磁場で4f電子の局在性が顕在化したΓ_4^<(1)>-Γ_1の擬四重項基底を特定した。さらにA相とB相の境界で,弾性定数(CrC12)/2が発散的にソフト化を示すことを見出した。これは,電気四極子に起因した量子臨界性が出現していることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究当初に想定していた3-20-6系カゴ状化合物および充填スクッテルダイトのラットリングの研究は,電荷揺らぎが本質であるため磁場に鈍感であり,ドレスデン強磁場研究所のDr.S.Zherlitsynらとの60Tパルス磁石を用いた強磁場実験へと発展しており国際共同研究が進んでいる。また,同じカゴ状化合物でもラットリングが発現しないPrFe_4P_<12>での未解明の秩序相Aや磁場誘起秩序相Bの研究が進んでいる。このように計画を超えた成果が出ており,評価に値する。
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今後の研究の推進方策 |
高精度の超音波実験を行うには2-3ミリ角の高品質の単結晶試料が必須であるが,充填スクッテルダイト化合物は1mm角程度の小さな単結晶育成が限度である。そのため超音波を発振させるトランスデューサーの小型化,薄型加工による高周波化,音響インピーダンスマッチングのための形状補正などが望まれる。そのため同時に挑戦的萌芽研究(課題番号23654116,研究代表:根本祐一)により,特殊加工したトランスデューサーの開発に挑んでいる。これらの成果を協調させることで超音波実験のさらなる進展が期待できる。
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