低温走査トンネル顕微鏡を用いた非弾性トンネル分光法を用いてPt(111)面上のFeとCoの単原子ならびに2原子、3原子クラスターについて、meVのエネルギー分解能で0-30meV域の非弾性励起過程の研究を行った。その結果、スピンフリップに関わる磁気異方性エネルギーはCo原子では10.2meV、Fe原子では6.5meVであることが分かった。この手法を用いて、より磁気異方性エネルギーの大きな原子やクラスターあるいは磁性分子を探索し、超高密度磁気記録材料の研究を展開したい。 高エネルギー域では8keVの硬X線光電子分光(HAXPES)を行い、数百eVでの軟X線光電子分光(SXPES)や10eV前後の極低エネルギー光電子分光(ELEPES)と比較検討することで、遷移金属酸化物の清浄表面に、電子遍歴性の小さい表面層が存在することを明らかにするとともに、その厚さの定量的評価に成功した。また光イオン化断面積の光エネルギー(hν)依存性の議論より、価電子帯における遷移金属3d状態、酸素の2p状態と混成した遷移金属4s状態の定性的な評価に成功した。 内殻光電子放出に伴って原子核の反跳が起こることが分子や単元素固体で知られてはいたが、化合物の価電子帯光電子放出の場合でも原子核の反跳が起こることがあることをLiV_2O_4について示すことに成功した。しかしV-O_6構造を含むVO_2では内殻のみならず価電子光電子放出にも反跳効果は観測されない。両者の違いは、最近接原子間距離がVO_2では前者に比べて若干だが小さいためと考えられる。今後の理論研究が待たれる。 阪大とドイツJuelich研究所の2箇所にELEPES装置を立ち上げた。エネルギー分解能3meVでの超高エネルギー分解能光電子分光が可能となり次年度以降の研究の大発展が期待できる状況となった。
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