研究課題
低温走査トンネル顕微鏡を用いた非弾性トンネル分光法を用いてPt(111)面上のFeとCoの 高いエネルギー域の硬X線光電子分光(HAXPES)については、8keVでの高分解能のHAXPESを500-700eV域の軟X線光電子分光と比較することで、高信頼度での光電子放出反挑効果の振る舞いに典型的な3つのパターンがあることを明らかにした。その上でV3Siについてはクラスターバンド計算を行い、フェルミ準位付近のO2pの部分状態密度の振る舞いを明らかにすることに成功した。10eV近傍以下の光エネルギーで行う極低エネルギー光電子分光(ELEPES)については、低温でフェルミ準位近傍に小さなエネルギーギャップが生じるとされている近藤半導体YbB12ならびにSmB6ならびにそれらのYbサイトやSmサイトをLuやEuで置換した混晶系についての詳細な温度依存性測定を行い、両者のエネルギーギャップ生成機構に明らかな違いがあることを明らかにした。またAu上に成長させたCoクラスターの走査トンネル顕微鏡観察に続いて可視光域でのKerr効果測定や軟X線領域の磁気円偏光吸収2色性測定を行い、その電子状態を明らかにした。さらにTiS2基板上に成長させた超伝導体Pb薄膜について走査トンネル顕微鏡観察と、十meV域での非占有量子状態の測定に成功した。実用面では円偏光あるいは直線偏光赤外線パルスレーザーをGdFeCo薄膜に照射したときの磁化制御のダイナミックスの研究を推進してきた。放射光パルスに同期した時間分解光電子顕微鏡(PEEM)観察を可能にしたので今後の応用への展望が広がりつつある。
2: おおむね順調に進展している
世界をリードしているkeV、数百eV域の光電子分光に加えて、数eVの極低エネルギー分光を推進してきた。またトンネル分光により数meV域の分光にも成功している上に、THz光を用いた実験を開始しており、これらを総合した研究で近く世界をリードできると思われる。
世界に類を見ない分光法の開拓を目指している。1つは軟X線域での共鳴非弾性散乱に摂動分光法を導入することである。本手法は絶縁体にも適用できる上に外部摂動は光に影響を与えないので、電場、磁場、軸性圧力でマルチフェロイックス物質の金属ー絶縁体ー磁性転移等を起こし、スペクトルの詳細を観察したい。
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