放射光軟X線を用いたXMCDによる元素選択磁化測定は、従来の磁化測定における熱磁化曲線や磁気ヒステリシス曲線に対応する情報が、磁性体に含まれる磁性元素毎に得られることが最大の特徴であり、従来の手法では成し得ない非常に強力な磁性研究手段に発展している。より強い磁場下での測定が求められるなか、現在までに10テスラを超える磁場下での測定報告は皆無である。本研究課題では、元素選択磁化測定という素晴らしい磁性研究ツールを一層発展させるべく、世界に先駆けてパルスマグネットを用いた20テスラを超える強磁場下での強磁場元素選択磁化測定技術の開発を行っている。当該年度には、パルスXMCD測定装置を製作し試行実験を行った。本装置は液体窒素直接冷却のパルスマグネットを備え、試料は液体ヘリウムフロークライオスタットにより10K以下に冷却可能となっている。CoFe合金薄膜を試料とした試験測定の結果、これまでの定常磁場による最高磁場強度10テスラを大きく上回る最大21テスラのパルス磁場を発生させ、世界で初めてのパルス強磁場下軟X線MCD測定に成功した。本測定技術の実現により、3d遷移金属元素の3d電子磁性やランタノイド元素の4f電子磁性が強磁場下で観測可能となった。また、1nA以下の微小電流を測定するためにパルス磁場下では困難が予想された「全電子収量法」を敢えて用いたことにより、バルク・粉末・薄膜などの幅広い試料形態に対応できる測定技術としてインパクトの大きい測定手法を生み出したと言える。今後は25~30テスラ領域の測定を目指すとともに、メタ磁性物質を中心に本測定技術を活かした物質研究を展開していく予定である。
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