研究概要 |
放射光軟X線を用いたXMCDによる元素選択磁化測定は、従来の磁化測定における熱磁化曲線や磁気ヒステリシス曲線に対応する情報が、磁性体に含まれる磁性元素毎に得られることが最大の特徴であり、従来の手法では成し得ない非常に強力な磁性研究手段に発展している。本研究課題では、10テスラを超えるパルス強磁場下での軟X線MCDによる元素選択磁化測定を行うための技術開発とその物質研究への展開を目的としている。H21年度には、パルス強磁場XMCD測定装置を製作し試行実験を行い、その結果、世界で初めて最大21テスラにおけるパルス強磁場下での軟X線MCD測定に成功した。この成果を加速的に発展させるため、本年度は、SPring-8の実験課題2010A1345,2010A1500,2010B1421,2010B1688など計6回の放射光実験を遂行した。この一連の実験を通してパルス強磁場XMCD装置の軽微な改造や測定法の改良、さらに、測定経験の蓄積により性能向上を達成し、最大磁場を25テスラに引き上げることにも成功した。本測定技術開発のうち、主としてパルス磁場電源と測定方法に関する成果については、国際会議VUV2010で発表するとともに原著論文として誌上発表を行った。一方、物質研究への応用として、Eu価数揺動物質や数種のメタ磁性体において強磁場軟X線MCD測定を行った。Eu価数揺動に関する研究では、2価および3価に対するXMCDの強磁場依存性と温度依存性が明瞭に得られ、現在、理論家との共同研究により実験結果の解釈が進行中である。
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