H23年度は、SPring-8の利用実験課題(計8課題)を実施し、当研究グループの有する軟X線吸収分光実験に関する世界最高磁場の自己記録(25T)を更新し、年度目標とした30Tの強磁場でのパルス強磁場XMCDプロファイルを得ることに成功した。このうち、25Tまでの結果について計2報の論文を発表した。また、長時間の軟X線照射によりダメージを受ける物質を測定するための策として、パルス磁場に同期するX線シャッターを開発した。X線シャッターはよりダメージが深刻な分子性物質のXMCD測定で活用されており、重要な技術開発の一つと位置づけられる。以上の測定技術の成果について、2012年10月にフランス・グルノーブルで行われる国際ワークショップ「Workshop on Synchrotron and Neutron Applications of High Magnetic Fields」での招待講演を受けている。一方、本測定技術を以下(1)~(4)の物質研究に応用し成果を得ている。(1)磁場誘起価数転移を有するEuNi_2(Si_<1-x>Ge_x)_2について、混合原子価状態におけるEu^<2+>とEu^<3+>の存在比と磁気モーメントの磁場依存性を定量的に解明した【論文投稿中】。(2)焼結ネオジム磁石の測定に応用し、表面における異方性磁界を元素別に解明することに成功した。この結果は永久磁石に関する国際会議(REPM2012)で発表する。(3)大阪大学の白土グループと共同で、垂直交換バイアス薄膜(Co/Cr_2O_3)の界面に誘起される固着したCr非補償スピンを強磁場で反転させる試みを行い、交換結合薄膜の反強磁性物質のネール点より十分低い温度で交換バイアスの符号を磁場で反転することに成功した[論文投稿準備中]。(4)LuFe_2O_4のFe価数に対する磁気モーメントの強磁場下磁気結合挙動。
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