研究概要 |
昨年度において,アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)によるエディティング反応が,リボザイム/タンパク質・ハイブリッド触媒によるものであることを初めて明らかにした。これは主として,aaRSファミリのロイシルtRNA合成酵素(LeuRS)を元にした解析結果であったが,Val/Ileなどの他のaaRSやリボソームにおいても成立つことを予測した。本年度は,こうしたLeu以外の系におけるエディティング反応などの機構を解明することを目指して,その精密な立体構造モデルの構築を行った。ValRSにおいては,tRNA_Valとの複合体の結晶構造において,CP1ドメイン部分の精度が低い(フレキシビリティによると考えられる)。そこで,CP1ドメイン単体の結晶構造(精度がはるかに高い)を組み合わせて用いることにより,CP1ドメインを含めたValRS-tRNA_Val複合体全体の精密な立体構造の構築を行った。本年度はこれらの系の立体構造モデルを精密に構築し,特徴的な構造要因(Arg 4個のパッチ構造)の安定化機構などを見出した。さらに,活性部位近傍のプロトン位置を正確に決定し,酵素触媒反応の正しいメカニズムを導くための準備が完了した。これらの解析は,古典場におけるMD計算とQM/MM MD計算とをフィードバックしながら丹念に解析することにより初めて得られた結果であり,精密な反応機構を得るために不可欠である。本年度はさらに,この高精度な立体構造を用いて,ハイブリッドQM/MM MD計算を開始するに至った(ValRS)。Ileの系においても同様な精密化を進めているが,他の系と異なりtRNA_Ile末端(A76)の03'に結合したアミノ酸の加水分解反応を解析する必要があることから,独自のドッキングシミュレーション(FSDD)により,(誤った)アミノ酸を付加した立体構造モデルの構築を進めた。さらに本年度は,リボソームの水和モデルの構築を開始し,タンパク質生合成過程の酵素反応機構の解明を目指した準備を進めている。これらは来年度におけるハイブリッドQM/MM MD計算の対象となる理論モデルの構築である。
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