平成21年度は、研究実施計画の中心をなす「超弦理論のオリエンティフォールドにおいて時空全体を覆うDブレーンのChan-Paton因子の構造を決定する研究」(Dongfeng Gao氏と共同)を完結させることに成功した。オリエンティフォールドは超弦理論から万物の理論を導く鍵となるコンパクト化において欠かせない要素であるが、その重要性にも関わらず、これまでDブレーン上の自由度(ゲージ場、物質場等)を決定する一般則が知られていなかった。この研究はこれを導き出すものである。また、予期していなかった副産物として、超弦理論のオリエンティフォールド自体を分類することにも成功した。この研究成果は超弦理論において基礎的、普遍的な価値を持つものであるが、特にN=1超対称性を持つ4次元へのコンパクト化を系統的に構成、解析するための重要なステップと考えることができる。実際この研究では、低エネルギー理論の解析のための準備として、Dブレーンの圏論的な記述法を開発し、束縛状態の安定性もしくはその崩壊過程についての議論を展開した。また、オリエンティフォールド理論におけるDブレーンのトポロジーをK理論によって分類することは10年来の課題であったが、これにも成功した。この研究は「N=1超対称性をもつ超弦理論のコンパクト化の全体像を把握し、それらの低エネルギー理論を理解するための方法を発展させること、更に理論を記述するために最も適した数学を探求もしくは開拓すること、を目指す」とした研究目的に向かう大きな進歩であると考えている。この成果は137ページの論文"On the structure of the Chan-Paton factors for D-branes in Type II orientifolds"としてまとめ(近日投稿予定)、また、いくつかの国際会議において報告した。
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