研究課題
これまでの散逸パターンの研究は非線形動力学的観点から行われてきたが、散逸パターンが形成されることによって非平衡開放系がどのような性質(いわゆる拡張された物性)をもつようになるかを知るためには、熱統計物理学的観点からの研究が必要である。特に、平衡系近傍の熱揺らぎに代わって、非平衡開放系ではマクロ非線形揺動(時空カオス)が重要な役割を果たす。そこで本研究では、ソフトモード乱流(SMT)をはじめとした多様な時空カオスを呈する液晶電気対流を対象として、マクロパターンの揺動とそれに基づく輸送現象などを統計力学的な観点から研究し、非平衡開放系における揺動と物理的性質の間の普遍的原理を確立することを目的とする。その一環として、SMT中に混入した微粒子の運動を追うことにより非平衡統計力学の近年の重要な成果である「揺らぎ定理」が、時空カオスに対しても成り立つかの検証を行った。その結果、対流ロール構造の時間スケールに関連した短い時間スケールでは揺らぎ定理が成立しないことがわかり、SMTがカオス構造で良く知られるような可逆で決定論的な性質と不可逆で確率論的なふるまいの二重構造をもつことが示唆された。空間フーリエ係数の時間相関関数を求める動的画像解析法によって、SMTの時空揺動の統計力学的性質を調べた。これまで空間パターンの解析により、揺動を生み出す非線形性の違いによってオブリクロール型とノーマルロール型の2種類の時空カオスを生じることがわかっていたが、長時間相関の波数依存性の違いから両者の性質をより明確に区別することに成功した。また、オブリクロール型SMTの時間相関関数の詳細な解析を行い、従来考えられていたような単純な指数型減衰ではなく、「引き伸ばされた指数関数(stretched exponential function)」であることを明らかにした。
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