前年度において予備的な結果が得られた2光子同時計測実験の成果が注目され、今年度のはじめに2件の招待講演を国際会議において行った。それぞれ分野の異なる会議であったが、いずれの会議においても本研究課題の成果の重要性が広く認められた。 この前年度の成果を発展させ、2光子同時計測実験の効率を向上させるため、まず半導体検出器の増設を行い、検出器の増設に伴う検出回路やデータ解析プログラムの整備などを行った。また、信号対雑音比を向上させるため、同時検出システムの改良を行い、時間分解能を向上させた。結果として、水素様クリプトンイオンの二電子性再結合過程において放出される2つの光子の同時計測を高効率で行うことに成功し、世界で初めて二重微分断面積の導出に成功した。得られたデータ点は一点のみであったが、これは放出光子の角度相関に現れる相対論効果やブライト相互作用効果を調べるという本課題の目標の一つに向けた大きな前進である。この成果はすぐに注目を集め、8月末に中国・上海にて行われた「第15回多価イオン原子物理国際会議」において、多くの一般講演の中から口頭発表として選出された。 実験と並行し、分担研究者や連携研究者とともに理論解析を進めた。現在得られている実験データを説明するための理論解析に加え、新たな成果を導く実験の提案も理論解析から行われた。分担者と密に議論を行い、その実験の遂行計画を練った。ブライト相互作用効果の研究にはより詳細な理論との比較が必要であるため、実験における精度の確認および向上を行うことが重要であるとの認識に至った。 2011年3月に開催予定であった物理学会第66回年次大会で成果発表を行う予定であったが、震災の影響で中止となったため、2011年8月に新潟大学にて開催された原子衝突研究協会第36回年会にて報告を行った。
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