本研究は、スピン偏極物質を新規に開発し、従来からある偏極物質と総合的に併用することにより、スピンの物理(スピン相互作用、スピンダイナミクス、スピン状態操作)について調べるとともに。スピン偏極物質を使った計測法を開発することを目的とする。申請書の「研究の目的」で設定した2つのテーマのうち、今年度は第1のテーマについて重点的に研究した。つまり、衝突する原子・分子や固体表面のような境界におけるスピン相互作用を調べ、スピン偏極移行やスピン注入の機構を解明し、物質から物質にスピン偏極を移すことである。実験では、アルカリ金属原子を光ポンピングし、気体中にスピン流を発生させた。アルカリ原子が緩衝ガスである窒素分子と衝突することにより、また、アルカリ原子どうしの衝突により、電子スピン流と核スピン流が互いに結合して流れる。そのようすは、計算シミュレーションにより再現できた。ガラス容器に固体のアルカリ塩を入れておくと、気体のスピン流が固体表面に達し、一部がアルカリ塩の核スピンに移る。その偏極移行の機構を調べるため、それぞれのスピン流の大きさや符号を光により制御しつつ、偏極原子から固体に移ったスピン偏極をNMP計測した。その結果、固体の核スピン偏極には気体の核スピン流が寄与していることを示し、アルカリ塩の核スピン偏極率を熱平衡状態に比べ約80倍にすることができた。本年度は0.56Tの磁場で実験したが、外部磁場の大きさを変え偏極移行する物質間の磁気双極子相互作用を詳しく調べるため、9.4Tの超伝導磁石を購入したので、高磁場NMP計測の準備をしているところである。
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