研究概要 |
本研究は,スピン偏極物質を新規に開発し,スピンの物理について調べるとともに,スピン偏極物質を使った計測法を開発することを目的とした。実験では,セシウム原子にレーザー光を照射し,原子気体中に電子スピン偏極と核スピン偏極の流れを発生させた。それらスピン流がセシウム塩の表面に達すると,原子のスピン角運動量が塩のセシウム原子核に渡され,核スピンが偏極する。それぞれの過程,つまり,光ポンピングによる光から原子への角運動量の移動,気体中の電子・核スピンの流れ,表面におけるスピン偏極移行,固体中のスピン拡散を詳細に調べることにより,セシウムの核磁気共鳴信号を熱平衡状態に比べ3桁以上増大させることができた。 昨年度は,セシウム塩の核スピン偏極がポンピング光の強さに対し非線形的に大きくなることを見出した。その後の実験により,原子を励起するレーザー光が塩にも照射されていたことが原因なのが判明した。通常,固体中のスピン拡散は,核スピン間の磁気双極子相互作用によって生じる。それに対し,レーザー照射で塩の温度が上昇すると,イオン結晶のカチオンとアニオンの易動度が大きくなり,イオン自体の拡散運動によってスピン偏極が拡散したのだった。固体表面で受け取った角運動量を,イオンが結晶内部まで速やかに輸送する。つまり,我々の開発したスピン偏極法は広くイオン結晶に適用できる。試料については,これまでのCsH,CsD,CsClに加え,Cslでも核スピン偏極を示すことができた。
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