研究課題
熱的に揺らいでいる環境と系の相互作用は、一般化ランジュバン方程式と呼ばれる方程式で厳密に表されることが知られている。前年度、熱揺らぎ存在下にあっても、系と熱浴のあいだの非線形相互作用等を考慮に入れることで、反応する・しないの命運を予め予測することを可能とする、(真の)反応座標を一般化ランジュバン方程式から彫り出せることを明らかにした。本年度は、自由度間相互作用の影響がさらに大きくなり、従来の摂動理論では、(真の)反応座標が消失する高温領域においても、反応する軌道と反応しない軌道を一義的に分(わ)かつ反応分割面は頑健に維持しえることを証明することに成功した。更に、ほとんどの摂動理論が破綻する高エネルギー領域にわたって、その反応分割面、反応座標がどのように消失するかを調べた。その結果、高エネルギー下にあっても、単純に消失することはなく、系の運動エネルギー、さらには、障壁のどの領域を通過するかによって不連続的に交替することが一般に存在し得ることを解明した。これらの結果は、従来の化学反応理論の再考を促すとともに、新たな化学反応機構の可能性を提示するものである。生命機能は平衡から離れた非平衡状態において生起し、そこでは詳細つり合いは満たされていない。我々は一分子時系列情報から抽出される状態遷移ネットワークから、非平衡定常状態に対して(ある状態から別の状態へ至るすべての経路を考慮にいれたエネルギー地形を導出する方法論を開発した。本方法では、ネットワークを構成する状態間では詳細つり合いが一般に破れているが、ネットワークを二分する断面で分割されるサブネットワークのあいだでは"定常性から"詳細つり合いが満たされることを利用する。時間スケールの増大とともに非ブラウン拡散からブラウン拡散へ移行するフラビン還元酵素の構造揺らぎ(Yangら Science 2003)に対し適用し、その有用性を実証した。
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