研究概要 |
本年度はより広域的な地図スケールでの物性分布を検討するために高知県土佐湾西部の白亜系四万十帯を対象に南北およそ40kmに渡る範囲で,砂岩および泥岩の弾性波速度を測定した.本地域は変形の弱いコヒーレント相と強く変形したメランジュ相,さらに古地温構造を切断するアウトオブシークエンススラストを含む.また,研究分担者の坂口有入氏により詳細に古地温構造が明らかにされており,物性と最高埋没深度との対応が可能な地域である.流体圧を加えた有効圧下で,P波およびS波について弾性波速度の測定を行った.サンプル数は砂岩が17個,泥岩が9個である.弾性波速度は標準的な範囲の結果が得られた. 以下では,1)最大有効圧のときの最大速度(Vmax),2)有効圧の変化に伴う弾性波速度の変化量(ΔV),3)サンプル採取地点におけるVR(内挿で求める)の3つの要素を用いて,それぞれの相関を検討した。 VmaxとVRについて砂岩には相関は見られず,泥岩には正の相関が見られた。ΔVとVRについて砂岩に正の相関が見られたが,泥岩には相関が見られなかった。またVmaxとΔVの間では砂岩のP波に正の相関があり,S波には相関が見られなかった一方,泥岩ではS波に負の相関があり、P波には相関が見られなかった。以上のように砂岩と泥岩ではまさに逆の関係が見られた。 このことは沈み込みプレート境界地震発生帯において砂岩と泥岩の物性がまったく異なる進化をすることを示している。砂岩は沈み込む過程で地震発生帯に達するまでに岩石化が完了しており,地震発生帯内では深度とともに間隙率は変化しない。一方泥岩は地震発生帯内部でも未だ岩石化が完了しておらず,深度ともに進行する。ΔVは異方的な間隙の量比に依存したパラメータで,砂岩では深度とともに変化するが,泥岩では変化しない。また,P波とS波でVmaxとΔVとの間の相関が異なることは異方的な間隙の方位が層に平行であることを示唆している。
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