平成22年度は、日本列島下の構造を十分な解像度で求めることが出来るように昨年度に決定した領域を用いて、地震の震源と地震観測点の組み合わせに対してカーネルの計算を実施した。カーネルは理論波形のP波とS波の到着時を元にして、adjoint法により計算した。計算したカーネルを領域内でプロットして、正しい空間分布を持っているかを検討した。カーネルの精度は周期20秒程度であり、実体波としてはやや長周期であるが、破線の周りに感度の高い領域が分布していることが確認され、この研究計画で実施しようとしている波形インバージョンの精度としては十分であることが分かった。計算したカーネルは地震50個程度まで得ることが出来たが、第一回のインバージョンでは可能な限り100個程度の地震に対して計算することを目標として設定した。今後、カーネルの計算を引き続き実施し、平成23年度の早い段階でこれらのカーネルを用いて内部構造のインバージョンを実施する。 理論地震波形計算を新地球シミュレータ上で、周期3.5秒の精度で実施した。この地震波形を地震震源対蹠点の観測記録に適用し、球対称構造では観測波形を説明できないことから、地球内核-外核境界の特定の部分に地震波速度がきわめて遅い不均質構造が存在することを明らかにした。この内容を学会で報告すると共に論文を発表した。また、異方性構造を求める従来の手法に対する反射波の後続相の影響を厳密な理論地震波形に基づいて考察し、異方性構造がない場合でも擬似的な異方性構造の影響を示す場合あることを明らかにした。
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