平成23年度は波形インバージョンを実施し、マントル内部地震波速度構造を求めた。波形インバージョンは、平成22年度までに計算した地球内部構造モデルに対する理論波形の感度を示すカーネルを地震毎に重ねあわせたカーネルを計算し、観測波形と計算波形の一致が改善されるように地球内部構造モデルを修正する。インバージョンに用いた地震はほぼ計画通りで100個、観測点数もほぼ計画通りで、地震毎に約50点を使うことが出来た。インバージョンを行うときは、初期モデルに対して、反復的にインバージョンを実施してモデルを改善していくが、今回は反復は1回のみとなっており、インバージョンを実施していくための第一段階の結果が得られたという解釈である。反復は1回のみであるために、モデルの修正量は小さく、観測波形に対する計算波形の一致の改善はあまり顕著とは言えない。しかしながら、モデルの修正がP波とS波モデルに対して異なった分布を示していることが分かった。これは、インバージョンに用いた初期モデルがP波地震波速度構造モデルに基づいて得られたものとなっており、S波速度構造モデルはP波速度構造モデルからのスケーリング則によって得られたものとなっているからである。スケーリング則が地球内部構造の実態に即したものとなっているならばモデルの修正量もP波とS波で同じ分布となることが期待できるが、これが異なる分布を示すことは必ずしもスケーリング則が適用できない可能性があることを示すことになり、興味深い結果が得られた。
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