本研究は、一般風の弱い晴れた日に砂漠などの裸地に発生する塵旋風や、寒気の吹き出し時に暖かい水面上に発生する蒸気旋風などの大気境界層に生ずる小スケールの激しい渦の発生機構や構造と力学及びその乱流輸送に果たす役割を包括的に理解するため、ラージ・エディ・シミュレーション・モデルを用いて対流混合層内に塵旋風・蒸気旋風を再現し、2つの渦の相違点・類似点を比較対照すると共に、室内実験・理論による考察と併せて、これらの渦の発生機構や構造・力学を解明することを目的としている。本年度の成果は以下の通りである。 LESモデルを用いて、日の出から日の入りまで日変化する(乾燥)対流混合層の中に生ずる塵旋風の再現実験を行った。この際、このような微細格子で表現できる乱流場に於ける適切な地表面フラックスの与え方についても検討した。再現実験では、環境風と地表面加熱の条件を変えて、塵旋風が最も発生しやすい環境を探ると共に、塵旋風の発生頻度・空間密度を調べた。 室内実験では、最近の竜巻に対するドップラーレーダー観測では、接線風速が半径の-0.6乗に比例して減少するという報告があり、なぜ角運動量が半径方向に一様にならないのかが解明されていないことから、上空の渦と地表面近くの境界層の相互作用を明らかにする室内実験を開始した。室内実験では、円筒水槽内の側壁でゆるやかな回転を与えた流体を流入させ、中心軸上に開けた穴から同じ流量で流出させることにより強い渦を発生させ、接線速度の半径分布の回転と流量への依存性を調べる予定であり、平成21年度はこのための実験装置を作成し、予備的な実験を行った。 理論的考察では、室内実験で得られた強い渦の速度分布の形成機構を、渦の底面に生ずる回転境界層との相互作用の観点から考察するために、境界層方程式に基づき、ランキン渦が存在するときの回転境界層の構造を求めた。
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