研究課題
海洋の中・深層における乱流拡散は、海表面からの熱の伝達を通して深層水に浮力を与え、表層に引き上げることで、深層海洋大循環の強さとパターンをコントロールしている。しかしながら、現在までに行われてきた深度約2000メートルまでの乱流観測によれば全球平均の乱流強度は、極域で毎秒約2千万トン沈み込むといわれる深層水をすべて表層へ引き上げるのに必要な値の1/5に過ぎない。これを補うものとして深海の海底地形の凹凸から鉛直上方に広がっていると推察される乱流ホットスポットの存在の重要性が指摘されてきたが、超深海乱流計が不可欠となることもあり、その実態は未解明のまま残されてきた。本研究では、使用を予定していた投棄式乱流計の企業開発が大きく遅延してしまったため、当初計画を変更し、平成23年8月の海洋研究開発機構・淡青丸による日本海航海と平成23年12月の北海道大学水産学部・おしょろ丸による小笠原航海に参加し、電磁流速計および密度計を取り付けた超深海乱流計VMP-5500を用いて、これまで観測空白域として残されてきた深度2000メートル以深、海底直上までの各深度における乱流強度とファインスケールの流速鉛直シアー/鉛直ストレインとの同時観測を行った。さらに、得られた観測結果を詳細に調べることで、超深海乱流強度をファインスケールの流速鉛直シアー/鉛直ストレインを用いて予報する実験式を作成した。この結果は、超深海における海底地形の凹凸から上方へ伝播していく内部潮汐波と超深海の背景場に存在する内部波との非線形相互干渉によって形成されるファインスケールの流速鉛直シアー/鉛直ストレインが数値実験によって予報できれば、超深海における乱流強度の正確な定量化とそのグローバルマッピングが可能となることを示しており、ミクロスケールの情報から深層海洋大循環研究のブレークスケールへの道を切り拓いた重要な成果と考えられる。
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