研究概要 |
本研究は極地氷床氷の流動および結晶微細組織発達メカニズムの解明と氷床中での同位体や不純物の粒界拡散を考慮した古気候・古環境情報解読の高精度化を目的として,これまで測定不可能であった拡散クリープによる氷の微小変位および粒界の体積変化や物質の拡散を最先端の精密計測技術で測定し,分子サイズレベルの物質移動量の情報を得ようとするものである. 21年度は研究計画に沿って研究を実施し以下の成果を得た. (1)ポッケルスセルを組み込んだ位相変調ホモダイン干渉計を完成させた. (2)恒温槽の温度を-5℃から-30℃の範囲で±2mKに数十時間安定させることが可能となった. (3)直径20mm長さ60mmの微細粒多結晶氷サンプルと単結晶氷サンプルを開発した位相変調ホモダイン干渉計にセットし,チャンバーの温度を-5℃に保持して試料長の変化を測定した.温度変化に伴う氷試料の熱膨張による変位を取り除くために,単結晶氷サンプルと多結晶氷サンプルの変位量の差を干渉計で差動測定する手法を採用している.氷結晶粒成長のデータおよび変位データの解析から-5℃での氷の粒界幅はpre-meltingにより10-9~10-7mと見積もることができた. (4)低応力下での多結晶氷のクリープ実験:予め一定荷重で1%程度圧縮変形した氷試料を位相変調ホモダイン干渉計にセットし,チャンバーの温度を-15℃から-25℃の範囲で一定に保持して,応力10-2~10-1MPaの範囲で定荷重クリープ実験を行った.その結果従来予想されていた拡散クリープによる歪み速度に比べて2桁以上早く,また活性化エネルギーは粒界拡散の活性化エネルギーに近い値が得られた.今後,さらに単結晶および多結晶を用いたクリープ実験を続け,メカニズムの解明と流動測の構築を行う.
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