研究概要 |
本研究は極地氷床氷の流動および結晶微細組織発達メカニズムの解明と氷床中での同位体や不純物の粒界拡散を考慮した古気候・古環境情報解読の高精度化を目的として,これまで測定不可能であった拡散クリープによる氷の微小変位および粒界の体積変化や物質の拡散を最先端の精密計測技術で測定し,分子サイズレベルの物質移動量の情報を得ようとするものである. 22年度は研究計画に沿って研究を実施し以下の成果を得た. (1)位相変調ホモダイン干渉計の精度向上のための検討を行った.その結果,歪み速度の測定精度をあと一桁上げるための各種装置の改良を行った.さらに,前年度の測定では結晶サイズの大きな多結晶で行っていたため,単結晶の性質と多結晶の性質が重なって現れていると考えられる.単結晶の拡散クリープ現象を測定するための試料育成方法の改良を行い,高純度な単結晶を得ることに成功した. (2)氷に含まれる微小気泡と粒界の相互作用について,結晶粒成長の実験により,明らかにした.その結果,40μm以下の微小気泡は粒界移動によって掃引され,逆にそれが粒界移動速度を遅くする要因であること.さらに,気泡内での水蒸気の移動が現象を律則していることから,これまで測定された氷結晶の粒界移動の見かけの活性化エネルギーは水蒸気拡散の活性化エネルギーであることを突き止めた.このことは氷床内部でのフィルン層での結晶微細組織発達メカニズムの解釈に大きく貢献する.また氷床コアのクラウディバンドの粒界拡散を議論する際にも重要であることを明らかにした. (3)0.02~0.5MPaの低応力領域で氷のクリープ実験を行い,遷移クリープ中に起きている亜粒界発達プロセスについて詳細に観察を行い,応力下での結晶粒成長に関する重要な知見を得た.この課題は継続中である.
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