研究概要 |
中海・宍道湖は,多様な汽水域環境が形成されているため,環境放射能を使った湖水の動態と生態系を比較するうえで実践的なフィールドといえる。今年度は目標としていたラジウムとラドンを使って水塊の動きや滞留時間の調査と方法に成果をあげることができた。初年度に購入したRAD7によってトロン(^<220>Rn)を含む池田鉱泉の鉱泉水のα線分析を行い,^<224>Ra(t_<1/2>=3.3年)の濃度を間接的に求める手法を確立することができた。一方でこの手法を使って中海湖水中の^<224>Raを求めるに当っては,捕集量を高める必要性があることも明らかにした。^<228>Ra(t_<1/2>=5.7年)と^<226>Ra(t_<1/2>=1600年)の放射能比は,湖水の循環が関係していることを人工的閉鎖水域の開放とその後の水の動きを3年間の継続調査から確認した。すなわち,閉鎖性水域の湖水の流入・流出が増加したため,^<228>Ra/^<226>Ra比は低くなった。また,底泥からの溶出が関係していることについては,ラジウム濃度の変化を溶出実験で確認した。これらの基礎データをもとに中海の滞留時間(Ra時間)を求めることができたが,約16-18gのMn繊維による捕集量ではγ線分析で高い計数誤差が生じた。結果として,滞留時間の高い誤差値については,来年度でその問題点を解決する予定である。湖水の滞留時間と比較するメイオベントスについては,底層水の動きやすさが生態系に関係している可能性がラジウム比にみられるが,今年度の調査では生個体が極めて僅かしか得ることが出来なかったため,現存量と滞留時間の関係を定性的に扱った。既存の産出データ,塩分と比較すると群集との間には明確な対応関係が見られることも明らかになった。すなわち,塩分が高く,Ra比が小さいほど,多様性が高くなる。また潮汐による底層水の運動が群集の多様性にも影響を及ぼしていることも明らかになった。
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