研究概要 |
沿岸汽水域の水塊は自然変動に加え,人為的な自然改造・人工構築物によって複雑な動態を有す。そのような水の動きを環境放射能によって指標化すれば,水質に対する生態系の反応,そして堆積場の理解が深まる。本研究は,中海の干拓予定地であった閉鎖水域の本庄工区でラジウムとラドンを使って水の滞留時間の測定と底生生物との関係を明らかにした。 これまでの調査を基にして,数日から十数日の湖水の動態を明らかにすることができる^<224>Ra(t_<(1/2)>=3.66d)と^<228>Ra(t_<(1/2)>=5.75y)をγ線によって測定を行った。また,昨年度まで試料水をろ過していなかった点や湖水中のラジウムを吸着させるマンガン繊維の形状効果を改善するため,今回は採水時の定量化とろ過及びマンガン繊維の灰化を行った。下層水(水深4-5.5m)の^<224>Raの濃度分布(0.04-0.16Bq/60L)は,濃度が最も高い地域(南西域),濃度が中間的で境水道からの水の影響を受ける地域(北東域),そして濃度が最も低く循環の悪い地域(大根島と江島の間)を示した。これらの地点の底層水の滞留日数は,1週間から2週間であった。メイオベントス(有孔虫)が多数生息していた地域は,中間的な^<224>Ra濃度であり,^<224>Ra/^<228>Ra比の高い場所(0.20-0.25),すなわち滞留時間の比較的短い場所に限られていた。 表層水(水深2m)の^<224>Ra/^<228>Raの放射能比は,境水道に位置する地点で0.22,工区中央の地点で0.02であった。^<224>Ra/^<228>Ra比は,滞留時間の差を示しており,工区内の周囲の地点の放射能比を基にして,表層水の動きを描くと,反時計回りの循環パターンを得ることができた。このパターンは,2010年のアオコ大発生時にみられたた大規模な渦巻きのパターンと一致していた。 Ra同位体比によって,水の循環・動態への応用が一段と高まったが,本研究によって^<224>Raには季節性や塩分差による地域性があり,測定値そのものによる絶対的評価は避けなければならないことも明らかとなった。
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