研究概要 |
鍾乳石とトゥファは人口が集中する温帯~亜熱帯の陸域古気候を定量的に解析するという意味で重要な研究題材であり,両者を併用することで長期的かつ解像度の高い古気候情報が得られると期待される。 今年度は新潟県糸魚川市等において石筍試料を採集し,分析を進めた。石筍試料は半割され,軽く研磨した上で,その一方の試料から,0.2mmの間隔で多数のサブサンプルを削り出し,酸素・炭素同位体測定を行った。また,石筍の年代測定を国立台湾大学の沈副教授に依頼した。 糸魚川市の石筍には完新世のおそらく降水量の変化を思われる酸素同位体比のシグナルが高解像度で得られた。冬期に降水量が多い糸魚川の記録では,夏期モンスーン強度を示す南中国の記録と逆相関を示すものと予想されたが,その傾向は4500年前以降に限定されていた。一方,それ以前の記録では温暖な時期(ヒプシサーマル)に降水量が増加することが示された。糸魚川の石筍酸素同位体記録は,むしろ対馬海流の強度を示すデータ符号し,日本海の海水温度が水蒸気の供給量を変化させ,糸魚川での冬期の降水強度に影響したことを示す。すなわち,日本海側での降雪量は冬のモンスーン強度が増加するか,海水温が上昇すれば増大する可能性がある。これは気候変動予測に役立つ知見であると思われる。 また,福岡近辺の遺跡で採集された二枚貝試料の安定同位体比を測定し,縄文時代における博多湾の海水温度について議論した(小池ほか,2011)。さらに,本研究の成果を取りまとめるために,石筍を用いた古気候学の現状と今後の進展に関する総説を執筆した(狩野,2011)。
|