研究課題
南海付加体分岐断層から採取した試料を用いて、乾燥・湿潤条件下、すべり速度1.3m/s、垂直応力0.6-2.0MPaで高速せん断摩擦実験を実施し、更に実験中の温度・湿度変化をモニターした。実験後、試料を回収し、光学顕微鏡、SEM-EDS、TEMによる微細構造観察・化学組成分析を実施した。乾燥条件下で実施した実験では、粘土鉱物の脱水に伴って摩擦がすべりの進行とともに顕著に低下することが明らかになった。また、この過程で粘土鉱物脱水由来の水が、摩擦発熱に伴って相変化し、断層内で水蒸気爆発を引き起こし、結果火山豆石類似の組織を形成することが明らかになった。この火山豆石類似の組織は、温度上昇域のみで形成されており、今後、天然の断層で見出すことができれば、摩擦発熱と水蒸気爆発に伴う断層内粉砕物の流動化(fluidization)の指標となり得ることが示された。湿潤条件下で実施した実験では、摩擦発熱による流体圧上昇(thermal pressurization)に伴って粉砕物が粘性流体化し、断層強度が顕著に低下することが明らかになった。この過程において、断層に含まれる粘土鉱物が定向配列し、高速域では粒子どうしの衝突による分散応力の発生に伴って粒子の分級作用が起こり、断層ガウジ内で逆級化構造が形成されることが明らかになった。分散応力はせん断歪み速度の2乗に比例し、ガウジ層の厚さはほぼ一定であることから、逆級化構造は、高速せん断に伴って流体に富んだ断層ガウジが粘性流体化したどうかの指標になることが示唆された。実験の結果、乾燥・湿潤条件下とも高速せん断、摩擦発熱に特有の組織が新たに見出されたので、天然の断層への適用を探るべく、四万十付加体に露出する断層すべり集中帯の調査を実施した。
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