研究概要 |
生命の発生に必要な有機分子の起源は、これまでアンモニアやメタンを含む還元型大気中の雷放電によるとする説が広く信じられてきた。しかし、最近の地球科学の進歩により、原始地球の大気は窒素にわずかに炭酸ガスを含む酸化型であることがわかり、有機分子の起源は謎となっていた。本研究代表者は、40~38億年前の地球に海が存在し、激しい隕石衝突(LHB)があった事実に着目し、「有機分子は当時の隕石海洋爆撃の際の、隕石中の固体炭素および金属鉄と海洋の水、大気の窒素の化学反応で多量に生成した」とする「有機分子ビッグ・バン説」を提案した(「生命の起源・地球が書いたシナリオ」(新日本出版、2006)。 本研究は、固体炭素、鉄、水、窒素をカプセルに封じ、衝撃銃で撃ってカプセル内に衝撃波を発生させ、その化学反応で生物有機分子の生成することを確かめて、上記説の正当性を実証しようとするものである。 本研究はすでに平成21年度以前に一部開始されていたが、平成21年度にはアミノ酸1種、カルボン酸6種、アミン4種の生成を確認して、Nature Geoscience 2,62-66(2009)誌上で発表できた。 この結果は、40~38億年前に激しかった隕石海洋爆撃の、衝撃時の化学反応によって隕石に含まれる普通の無機物から有機分子が生成し得ることを実証したもので、物理・化学および地球科学的に合理的な有機分子の起源を示すものであった。同発表は、新たな生命起源論の一つとして科学専門誌のみならず日米のマスコミの関心を集め、ブリタニカ年鑑2010の地球科学の項の解説でも取り上げられた(Britanica Book of the Year 2010, 228-229)。 生命が出現する直前の、40~38億年前の原始地球上で隕石海洋爆撃で有機分子が生成されたであろうことを実証した本成果は、科学に期待される最も根源的な謎「生命は何時、如何に出現したか?」に迫る大きな一歩となった。
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