研究課題
外来性の撹乱魚種に位置づけられる北米原産のオオクチバスは、高次消費者として水圏の中期的変動傾向を反映すると期待される。人為的影響が少ない富山県下の集水域10カ所を対象域として、オオクチバスとその餌生物、堆積物と懸濁物を採取し、胃内容物の観察と、δ13Cとδ15Nの分析を行って食物連鎖に現れる変化と環境との関係を研究した。オオクチバスの摂餌生物の65%が魚類であることから、魚食性の強さが再確認された。餌対象の魚種のδ15N値変動がわずかであっても、δ13C値では魚種で大きな違いがみられ、餌の利用の違いは各水圏のオオクチバスのδ13C、δ15Nを特徴づける要素となっていた。下流域のダム湖では、堆積物を栄養源とした食物網に支えられ、集水域の標高が低さや人為的影響によりδ15N値が上昇するが、平均標高が500mより高いダム湖では、付着藻類に依存した生態系であること、また丘陵域ダムや溜池と、渓流域ダムでは、オオクチバスの食物連鎖長の傾向が異なることを見いだした。水の回転率の差や湖水平均水温がこれらの違いを生じる要素であることを示唆した。これらの結果によって、オオクチバスのδ13Cとδ15Nは各水系の特徴である食物連鎖や供給栄養塩の条件等によって大きく変化し、集水域の環境変化を特徴づけることが明らかになった。環境条件とδ13Cとδ15Nの関係は生物地球化学的な因果関係で解釈可能であることを現地調査で示し、この分析方法が水圏環境のモニタリング手段として有効であることを示した。本研究で提案する、食物連鎖と同位体を用いた研究方法は、簡便かつ短期間の調査で生態系の変動傾向を把握する有効な方法として期待され、人口増加や都市化の問題を抱える世界の湖沼において、その解決のための評価手段としてきわめて有用であることが示された。
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