本研究の目的は「地球に落ちた地球外物質によってどのような有機物が供給され,その後どのように化学進化したか?」を探ることである。平成24年度は模擬彗星物質を用いて衝撃実験を試みた。 まず、彗星を模した出発物質の衝撃実験を行えるよう,液体用衝撃反応容器の開発を行った。固体用に使用していた反応容器のプラグ部分を2つに分割し、試料を封入するプラグ部分をガスケット(アルミニウム)でシールすることにより、液体試料の衝撃実験を可能とした。 次に、彗星衝突を模擬した衝撃実験を行った。それにより、彗星の中に含まれるアミノ酸が衝撃により重合し、ペプチドを生成することが明らかになった。この実験では3量体までのペプチドの生成が確認された。また、2量体のアミノ酸については、アミノ酸が鎖状につながったジペプチドの方が、さらなる分子内縮合によって環状につながったジケトピペラジンよりも多く生成することも分かった。これらの結果は、彗星衝突という極低温環境での衝撃化学反応が鎖状のペプチドの生成に有利に働いていること、初期地球に降り注いだ彗星の量や衝突条件を考慮すると、彗星衝突により供給されたペプチドの量は海底熱水噴出口におけるペプチドの生成量に匹敵する可能性があることを示唆している。 さらに、衝撃によるアミノ酸の化学反応の反応メカニズムについての基礎的な理解するため、出発物質の温度を77 K、300 K、450 Kと変化させて衝撃実験を行った。77 Kでの実験は、試料を封入した衝撃実験用容器を液体窒素で満たした発泡スチロール容器の中に入れ、その状態のまま衝撃を与えることで実験を行った。450 Kでの実験は、ヒーターを用いて衝撃実験用容器を加熱することで実現した。その結果、アミノ酸の衝撃分解とペプチドの生成は圧力よりもむしろ温度に依存した反応であることがわかった。
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