研究概要 |
ドップラーフリー分光計測に用いる半導体レーザーの特性評価を行った.ドップラーフリー分光にはレーザー光の吸収飽和が必要である.飽和は,光励起により遷移の下準位ポピュレーションが減少し,レーザー光の吸収が起こりにくくなることにより生じ,計測では,レーザーパワーを増大させたときの吸収量の減少として観測される. 一般には,衝突遷移などによる下準位へのポピュレーション流入や,下準位と基底状態との間の輻射再吸収によるポピュレーションの入れ替えが発生するため,下準位ポピュレーションの減少が緩和され,光の吸収および放出過程だけを考えた2準位モデルと比較すると,飽和状態への到達は妨げられる.飽和状態の実現には,他の関連するプロセスの遷移レートを上回るレーザー光励起のレートが必要であり,そのためにはすなわち,高強度のレーザーが必要となる. 飽和に必要なレーザー強度を調べるため,名古屋大学のヘリコン波放電方式の直線型プラズマ発生装置で実験を行った.プラズマの軸方向にレーザー光を通過させ,周波数スキャンを行いながら透過光強度を測定することで吸収スペクトルを求めた.レーザー光強度の増大とともに,吸収量が減少することは確認できたが,事前の見積りよりも飽和状態への到達が緩やかであることが明らかとなった.飽和のための条件は対象とするプラズマによって異なり,現在実験を遂行している直線装置で得られた飽和のための条件をそのままLHD実験に適用できるものではないため,飽和を妨げる主要な原子過程を明確にし,LHDプラズマ条件を考慮に入れた上で,飽和状態の実現に必要なレーザーのパラメータを導出する必要がある.そのためには,微細構造準位に分けた水素原子の衝突輻射モデルの整備が不可欠であり,モデルの構築と,実験によるモデルの正当性の実証が次年度の主要な課題となる.
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