研究概要 |
直線型ヘリコン波プラズマ生成装置の低密度モードの放電において,水素原子のバルマーα線に対する計測を行ったところ,吸収スペクトルにわずかな凹みが観測され,飽和吸収が達成されていることが確認された.観測された凹みからドップラーフリースペクトルを再構築したところ,スペクトルは,磁場強度約350ガウスのゼーマン分離したσ光成分によって主に構成されていることが確認された.現在の配置では,レーザーの光軸と磁場の方向がほぼ一致しているため,π光成分が微弱であることは妥当な結果と考えている.今回購入したレーザー増幅器を用いてレーザー強度を変化させ,飽和パラメータがレーザー強度に応じて増大することを確認した.しかしながら,飽和パラメータの上昇とともに線広がりが増大し,その結果観測されるスペクトル線のゼーマン分離が不明瞭となる傾向にあることが明らかとなった.このような性質は本計測にとって今後障害となる可能性があるが,その原因はよくわかっていない 一方,レーザー光吸収の過程を考慮に入れた衝突輻射モデルの整備を行った.レーザー光を吸収する原子のうち,レーザー光の波長および線幅に対応する速度分布成分だけを取り出して原子過程レート方程式を解き,吸収過程が飽和をシミュレートするための計算モデルを構築した.シミュレーション結果は飽和パラメータがレーザー光の波長によって変化することを示唆しているが,実験ではそのような結果が得られていない.また現状では,飽和パラメータの絶対値についても,実験結果とシミュレーション結果との乖離が大きいが,今後さまざまな副次的プロセスを考慮に入れることで,シミュレーションの精度を向上させて行くための基礎を準備することができたと考えている
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