研究概要 |
ダイバータシミュレーション装置ではゼーマン分離が計測精度以下となる60ガウスの磁場強度で放電を行い,前年度問題となったクロスオーバー線について詳細に調べた.クロスオーバーとは,共通する下準位または上準位を持つ近接したスペクトルの中間に正または負のピークが生じる現象を言う.得られるスペクトルには,共通の準位を持たない遷移の中間にもピークが存在し,クロスオーバーと同様の現象が生じていることが推定される.これらは飽和吸収スペクトルにおいて正のピークとなることから,下準位のポピュレーションが原子の速度を保存したまま交換していることを示唆している.バルマーアルファ線の下準位には,2S_1/2, 2P_1/2, 2P_3/2の3準位があるが,いずれの準位の間にもクロスオーバー様のピークが見られ,これらの3準位の間でポピュレーションの交換が生じていることを示している.2s-2p間の電子衝突による遷移はよく知られているが,微細構造の間での遷移が直接的にスペクトルに現れていることは興味深く,遷移レートの解析などの研究へつながる結果が得られた. LHDプラズマでの計測では,レーザーの拡散を抑えるため径の小さい光ファイバを用意し,また集光光学系の改善によりシステム全体のスループットの向上を図った.8mの空中伝送によるロスが抑えられ,結果としてこれまでよりも3桁程度高い強度の戻り光が得られるようになった.原因不明のノイズのため目標とする0.01%レベルの吸収の検出には至っておらず,実際の計測においても有意な吸収を検出することができなかった.核融合プラズマは一般に光学的に薄く,吸収量を定量的に計測するためにはロックイン技術等の高精度な計測が必要であることが明らかとなった.
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