研究課題/領域番号 |
21350011
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 雅由 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (80252568)
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研究分担者 |
鎌田 賢司 独立行政法人産業技術総合研究所, ユビキタスエネルギー研究部門, 主任研究員 (90356816)
久保 孝史 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60324745)
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キーワード | 開殻系 / ジラジカル / 電場効果 / 非線形光学 / 密度汎関数法 / Ab initio MO法 / 遷移金属 / グラフェン |
研究概要 |
本年度は、(1)グラフェンナノフレークを含む多環芳香族炭化水素(PAH)、(2)遷移金属-金属結合をもつ二核錯体系、の三次非線形光学特性について、開殻性と分子構造、スピン/荷電状態、電場効果、置換基導入効果、に焦点を絞り研究を行った。また、実験サイドとの共同研究では、我々の理論により開殻性に基づく三次非線形光学特性の増大が予測されていたゼトレン系についてさらに多くの類似化合物の二光子吸収を測定し、理論の妥当性を検討した。以下に簡単に結果をまとめる。 (1)ジフェナレニルユニットを接合した1次元グラフェンナノフレークやアセチレンリンカーで連結した超ポリエンモデルの計算を行い、その接合様式により開殻性を制御できることを見出した。通常の閉殻一次元系とは顕著に異なるマルチラジカル性に対応した三次非線形光学特性γの増大が見られた。また高スピン状態にするとγが劇的に大きさが減少し、一方、荷電欠陥を導入するとγの符号が反転し、大きさは顕著に増大することがわかった。中間開殻性を示すジフェナレニル分子系に静電場を印可すると巨大なγの増大が予測された。これは従来の増大機構とは異なり電荷の非対称性に起因するタイプ1の効果であることが予測された。同様の効果がドナー/アクセプター導入によっても得られた。以上の有機系についての結果に基づき、ジラジカル因子を通したγ増大/制御の指針が得られた。(2)遷移金属結合系について長距離補正密度汎関数法の領域分割パラメータの最適値が有機系と異なることが判明した。寄与のσ、π、δ軌道軌道への分割により、これらの系の開殻性とγの関係は主にσ結合の開殻性に支配されていることを初めて明らかにした。今後、リガンドの効果や多核金属錯体への展開を行う予定である。実験によるゼトレン系の測定結果が複数得られたので、その機構解明と我々の設計指針の妥当性を検証するため、実在系について高精度計算によるγの算出を行い、その起源が中間ジラジカル性にあること、その大きさは幾何構造により変化することを見出した。また、ジラジカル因子の実験的推定に関しても三重項励起エネルギーの測定が残っており、現在、その準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
有機系の超分子系およびグラフェン一次元系用の解析法の開発が予定より早く進展し、大きなサイズのマルチラジカル系への適用も可能になる方法論/解析法の見通しがついたため、いくつかの予備的な計算を実行し、マルチラジカル性の制御やそれに基づく非線形光学特性の大きな変化がえられた。これをもとに今後の新たな進展が期待できるため。一方、遷移金属系の解析を実行し、初めてσ結合の開殻性がその非線形光学特性を支配していることを示した。これはこれまでの非線形光学物質には見られなかった特徴であり、今後、多核金属錯体等への展開の基礎となると考えられる。以上により、当初計画より興味深い対象が新たに明らかになり今後の研究のさらなる必要性と展開のターゲットが得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
11で述べたように、有機系、無機系ともにジラジカルのみならずマルチラジカル性を示す超分子系への展望が開けてきた。このような系では、さらに中間スピン状態や多様な荷電状態、さらに様々な幾何構造等多くの制御可能な自由度が増えるため、より興味深い新現象や非線形光学に限らない開殻性に基づく新たな物性発現の機構解明や新物質設計指針の構築などの研究の展開が見込まれる。これらの研究の推進は、理論化学のみではなく、合成、測定を行う実験家との協力と互いの緊密な連携が必須と考えられるため、本研究で見出された新たな研究テーマの推進を目指して、内容や研究組織等を再構成し、最終前年度申請で基盤研究(A)を申請している。
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