研究概要 |
本研究の目標は励起光に紫外~可視領域のパルスを用いて制御光に可視~近赤外領域のパルスを用いたハイブリッド型量子制御を行うことである。NOPAパルスを用いた実験では十分なレーザー出力の安定性が得られなかったために,NOPAを用いた可視光(紫外光)と近赤外光(可視光)の実験の代わりに第二高調波(紫外光)と基本波(近赤外光)を用いた制御の実験を引き続き行った。その結果,シアニン色素の光異性化反応(trans体→cis体)と溶媒分子との光反応(leuco体生成)の反応分岐比を制御することに成功した。すなわち,UVパルスで励起した後に近赤外パルスによりcis体生成とleuco体生成の比を調節することに成功した。特に着目すべきは,1光子過程で反応が進むことが知られているシアニン色素の反応が,実は多光子励起を経由した反応経路が存在し,その経路の方が1光子過程経由の反応経路よりも反応効率が高いことを見出した点にある。加えて,cis体生成とleuco体生成とでは関与する光子数が異なるために,制御パルスの強度を調節することでcis体とleuco体の生成分岐比を制御が可能であることも見出した。この結果は,位相変調パルスによる量子制御は基本的には多光子過程であり,多光子過程の効率は強度(光子密度)に強く影響されることを考慮すると,今後の量子制御を行う上で重要な意味を持つ。また,ハイブリッド方式では,励起パルスと制御パルスの両方のパルスが関与した交差項イベントを抽出してモニターする必要がある。すなわち,1光子過程に埋もれた多光子過程を選択的に検出できる測定手法が必須になる。そのために,1kHz程度の低繰返しのパルスレーザーでも交差項成分のみを抽出することが出来る位相シフト変調法(Phase-shifted Parallel Modulation,PPM法)を開発した。
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