研究概要 |
本研究の目標は,飛行時間型質量分析計と波長可変赤外レーザーを利用したイオンクラスター分光により,不飽和炭化水素の求核付加・置換反応の反応メカニズムを分子レベルで明らかにすることである。この目標に対し22年度は,21年度に引き続いて一酸化二窒素カチオンN_2O^+の求核付加・置換反応の解明に取り組んだ。 実験は,一酸化二窒素クラスターイ定ン(N_2O)_n^+に対しメタノールCH_3OHを溶媒和させたクラスターイオン(N_2O)_n^+・CH_3OHを電子衝撃イオン化法により生成させ,その赤外スペクトルを観測した。その実測の赤外スペクトルを,量子化学計算により得られたいくつかの安定構造の理論赤外スペクトルと比較することにより,(N_2O)_n^+・CH_3OHの構造を決定した。 (N_2O)_n^+に水H_2Oを付加させたクラスターイオン(N_2O)_n^+・H_2OではN_2O^+とH_2Oの間で付加反応が起こり(N_2O-OH_2)^+イオンが生成したが,N_2O^+とCH_3OHの間では付加反応は起こらず,正電荷がメタノール側に局在することが明らかになった。H_2OとCH_3OHのN_2O^+に対する反応性の違いは,H_2OとCH_3OHのイオン化ポテンシャルの違いに由来している。H_2OとN_2Oはイオン化ポテンシャルの違いが0.27eVと比較的近いが,CH_3OHとN_2Oでは1.95eVと非常に大きい。そのため,CH_3OHとN_2Oの間ではそれぞれの分子軌道の混合が起こらず,反応がおこらないと結論づけた。
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